2014年3月23日日曜日

【100mSv以下の放射線被ばくに関するリスクコミュニケーションの問題点への指摘と、福島県における甲状腺がんの発生状況に関する分析】 津田 敏秀 岡山大学大学院・環境生命科学研究科 教授 1958年生まれ。岡山大学医学部医学研究科修了。医学博士。専門は疫学、環境医学、因果推論、臨床疫学、食品保健、産業保健。 日本国内では、「100mSv以下の被ばくでは、放射線によるがんは発生しない」という誤った言説が信じられてきました。その誤解は、2011年4月初旬に、放射線医学総合研究所がホームページで発表した「放射線被ばく早見図」に端を発しています。同研究所は、同図において100mSvで線引きを行い、「それ以下では、がんの過剰発生はみられない」としたのです。同図は1年後に修正されましたが、100 mSvをめぐる誤った言説はその後も広がり、学会や省庁のホームページ、あるいは国連特別報告者の報告に対する日本政府の反論に用いられ、多くのメディア関係者がこれを信じています。 しかし、放射線による発がん影響に閾値がないことは、ICRP(国際放射線防護委員会)の前身である国際X線ラジウム防護諮問委員会(IXRPC)が1949年に結論づけて以来知られており、実際に100mSv以下で人体の「過剰発がん(放射線被ばくによるがん)」が、多事例、観察されています。上記の誤った言説は、100mSvという閾値があるものとし、国内の行政や専門家に対する、住民の不信や不安を増幅させているのです。 一方、福島県では「18歳以下(2011年3月時点)の全県民を対象にした甲状腺スクリーニング検査」が続けられており、次段落に示すような多数の甲状腺がんが検出されていますが、福島県の県民健康管理検討委員会は「福島第1原発の事故や放射線被ばくとは関係がない」と主張し続けています。しかし、多発かどうかの数量的比較などはなされていません。 この甲状腺がんのスクリーニング結果は約3ヶ月ごとに集計され、2014年2月7日の発表をもって、福島県内全域の結果がかなり出そろいました。1年目は福島第1原子力発電所から最も近い市町村、2年目は人口の多い「中通り」と言われる地域の市町村、3年目は空間線量が比較的低い地域が対象にされています。これらの県内データを、県外の日本全国や外国の甲状腺がん推計発生率と比較した(外部比較という)結果、空間線量に比例して甲状腺がんの著しい多発(オッズ比10.83〜61.88 *1)が認められました。また、県内で空間線量が高い地域と低い地域を比較(内部比較という)しても、結果は同様でした(オッズ比1.60〜5.72  *2)。委員会は現在の多発状況を「スクリーニング検診では、本来は発生症例と把握されないがんもみつかり、過大評価されるため(スクリーニング効果という)」としていますが、内部比較による結果は、この説明が成り立たないことを示しています。 *1 15〜19歳の日本全国の甲状腺がんの発生率(100万人に5人)を1とし、がんが発見されずにいる平均期間を2年としたときの比を指す。 *2 いわき市を除く東地区の有病割合を基準として、発生率比(同地区を基準とした多発の程度)を示す倍率を推定している。

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